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人手不足の歴史と変遷──成長と衰退の業種から考察する

  • 執筆者の写真: 迪宇 坂本
    迪宇 坂本
  • 3月21日
  • 読了時間: 4分
人手不足の歴史と変遷──成長と衰退の業種から考察する

「人手不足の歴史と変遷──成長と衰退の業種から考察する」



1. 1970年代:高度経済成長の果実と歪み


1970年代前半、日本経済は高度経済成長のピークに達し、企業の生産活動は急拡大しました。この時期の人手不足の要因は、国内総生産(GDP)の急成長とともに、労働市場の需給が逼迫したことにあります。特に製造業、建設業、繊維産業が経済成長を牽引し、膨大な労働力が必要とされました。


円が固定相場制から変動相場制へ移行し、1971年のニクソン・ショックを受けて円高が進行しましたが、製造業は未だ国内中心であり、賃金上昇とともに大量雇用が続きました。一方、農業・漁業などの第一次産業は、都市部への労働力流出によって衰退の兆しを見せ始めました。



2. 1980年代後半〜1990年代前半:バブル経済と労働市場の歪み


1980年代後半、日本は空前のバブル経済に突入しました。不動産・金融市場の過熱により、建設業、不動産業、金融業が急成長し、人材需要が爆発的に増加しました。しかし、この時期の労働市場は「労働力の偏在」という問題を抱えていました。高賃金を求めて若年労働者が不動産・金融業に流れ、製造業の現場では深刻な人手不足が発生しました。


また、この時期は円高の影響を大きく受けた時代でもあります。1985年のプラザ合意以降、急激な円高により輸出産業の採算が悪化し、製造業の海外移転が加速しました。これにより、国内の製造業は衰退し、一部の工場は閉鎖を余儀なくされました。一方で、バブル経済の影響でサービス産業が急成長し、小売業や外食産業が隆盛を極めました。



3. 2000年代:デフレ経済と雇用の停滞


1990年代後半のバブル崩壊後、日本経済は長期にわたるデフレに陥りました。この時期、企業はコスト削減のために正社員を減らし、非正規雇用を拡大しました。特に小売業、飲食業、介護業界ではパート・アルバイトの活用が進みました。


一方で、製造業はさらに海外移転を進め、中国・東南アジアへの生産シフトが加速しました。この結果、国内の製造業の雇用は減少し、日本の労働市場は「安定した正社員の減少」「低賃金の非正規雇用の増加」という二極化が進行しました。


また、IT産業が急成長したのもこの時期の特徴です。1990年代後半からのインターネット革命により、システムエンジニアやプログラマーの需要が急増し、ホワイトカラーの労働市場が変化しました。しかし、日本のIT人材は不足しており、海外からのエンジニア受け入れが進まなかったことが、成長の足枷となりました。



4. 2010年代:人手不足の深刻化と構造転換


2010年代、日本は本格的な人口減少局面に突入しました。生産年齢人口(15〜64歳)は減少し続け、多くの産業で労働力不足が顕在化しました。特に介護、建設、運輸、宿泊・飲食サービス業では、慢性的な人手不足が続きました。


この時期、円安政策(アベノミクス)により、製造業が部分的に国内回帰したものの、慢性的な人材不足により生産力の回復には至りませんでした。また、外国人労働者の受け入れが本格化し、技能実習生制度や特定技能制度を通じて、建設業・介護業などの人材補充が図られました。


一方で、IT・AI技術の進化により、ホワイトカラーの業務が自動化され、従来のオフィスワークの需要が減少しました。これにより、事務職や経理職などの求人は減少し、企業はより専門的なスキルを持つ人材を求めるようになりました。



5. 2020年代以降:ポストコロナと新たな人手不足の波


2020年代に入り、新型コロナウイルスの感染拡大により、日本の労働市場は激変しました。飲食・観光業は壊滅的な打撃を受け、大量の失業者が発生しました。一方で、EC(電子商取引)の拡大により、物流業界の人手不足が深刻化しました。


また、コロナ後のリモートワーク普及により、オフィス需要が減少し、不動産・都市型サービス業が大きな影響を受けました。これに対し、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、IT・データ分析関連の需要は急拡大しました。


さらに、2023年以降は円安が進行し、海外からの観光客が急増。観光業は復活しましたが、現場では深刻な人手不足が続いています。特に地方の旅館・ホテルでは、高齢化した従業員に代わる若年労働力が確保できず、事業継続が困難になるケースが相次いでいます。



6. 今後の展望:人手不足の解決策はあるのか?


2020年代後半に向け、日本の労働市場はさらなる変革を迎えます。第一に、労働力人口の減少が加速する中で、AI・ロボット技術の導入が必須となります。特に、単純労働が求められる業種では、自動化が生産性向上の鍵を握るでしょう。


第二に、外国人労働者の受け入れ拡大が避けられません。特定技能制度の拡充や永住権取得の緩和が進めば、日本の労働力不足は一定程度緩和されるでしょう。


第三に、働き方改革の推進により、短時間労働や副業の普及が進むことで、潜在的な労働力の活用が期待されます。


以上を総括すると、日本の人手不足は、経済の成長と衰退を映し出す鏡のような存在です。


今後の日本が持続的に発展するためには、技術革新と社会制度の変革を両輪として進めることが不可欠です。これを怠れば、国際競争力の低下と経済の停滞は避けられません。


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