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【深刻な人手不足】都道府県別の現状から未来予測、そして私たちにできること

  • 執筆者の写真: 迪宇 坂本
    迪宇 坂本
  • 6月13日
  • 読了時間: 23分
人手不足

日本の未来を左右する「労働力不足」という現実

いま、日本社会は静かに、しかし確実に「未来を揺るがす危機」に直面しています。その名は──「労働力不足」


少子高齢化が加速する中、私たちの産業界はこれまで経験したことのない規模で「人材」という資源の枯渇に直面しています。これは単なる「採用難」や「求人難」といった一時的な問題ではありません。放置すれば、経済成長の鈍化だけでなく、社会保障制度の持続性が揺らぎ、地域社会そのものの活力が失われていく──そんな未来が現実味を帯びています。


「人手不足」と聞くと、「失業率が低い状態なのだろう」と思う方もいるかもしれません。


しかし、実態はもっと深刻です。


有効求人倍率は1倍超。求職者よりも求人数が多い売り手市場。しかも、完全失業率は2.5%と極めて低水準。これはつまり、企業が「人が欲しいのに、見つからない」という苦しい現状に直面しているということ。そしてそれは今後、より広範な業種・地域に拡大していくと予測されています。


では、この「労働力不足」は今どれほど進行しているのか?

地域ごとに差はあるのか?

未来に向けて、どんな備えが求められるのか?


ここからは、


👉 都道府県別の現状分析

👉 2030年・2040年の未来予測

👉 背後にある構造的な要因

👉 企業・地域・個人として取り組むべき具体策


──これらを分かりやすく、かつ実践的に解き明かしていきます。


なぜなら、この課題に「傍観者」でいる余裕は、もはや日本社会にはないからです。

さあ、一緒に未来を見据えていきましょう。



I. 日本の労働力不足、その「今」を知る

有効求人倍率から読み解く、地域別・人材争奪戦の現実


まず押さえておきたいのは、今、日本全体でどれほど「人手不足」が進行しているのか──その「現実の数字」です。


全国の有効求人倍率は2025年4月時点で1.26倍。これは、求職者1人に対して1.26件の求人が存在しているという状況を意味します。つまり、今や日本では「仕事はある。けれど、働き手が足りない」状態が全国的に常態化しているわけです。


しかもこれは単なる平均値。

地域別に掘り下げてみると、その深刻度に驚くほどの差があることが見えてきます。


たとえば──福井県:1.87倍富山県:1.67倍石川県:1.59倍


こうした地方圏では、もはや「人材確保」は経営課題の最上位テーマになっていると言っても過言ではありません。


一方、東京都は1.13倍、大阪府は1.05倍と全国平均は下回るものの、依然として1倍超の売り手市場が続いています。


つまり、地方も都市部も、規模の違いこそあれ「人が足りない」現実は全国共通の課題だということです。


ここに、地域ごとの産業構造・人口動態・交通インフラなどが複雑に絡み、「人材の偏在」と「争奪戦」が今後さらに激化する未来が見えてきます。


では、あなたの地域はどうなっているのか?


次の表で、2025年4月時点の都道府県別・有効求人倍率を確認してみましょう。


👇👇👇

都道府県

2025年4月

都道府県

2025年4月

北海道

1.08

滋賀県

1.29

青森県

1.21

京都府

1.30

岩手県

1.30

大阪府

1.05

宮城県

1.23

兵庫県

1.16

秋田県

1.38

奈良県

1.37

山形県

1.48

和歌山県

1.23

福島県

1.43

鳥取県

1.51

茨城県

1.45

島根県

1.60

栃木県

1.33

岡山県

1.46

群馬県

1.42

広島県

1.38

埼玉県

1.23

山口県

1.70

千葉県

1.25

徳島県

1.29

東京都

1.13

香川県

1.72

神奈川県

1.11

愛媛県

1.51

新潟県

1.53

高知県

1.21

富山県

1.67

福岡県

1.06

石川県

1.59

佐賀県

1.44

福井県

1.87

長崎県

1.30

山梨県

1.55

熊本県

1.38

長野県

1.43

大分県

1.48

岐阜県

1.50

宮崎県

1.39

静岡県

1.23

鹿児島県

1.21

愛知県

1.31

沖縄県

1.10

三重県

1.38



出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」(2025年4月季節調整値)より作成    


このデータから読み取れるのは──都市部と地方部では「人手不足感」の質そのものが異なるという現実です。


たとえば、東京都や神奈川県といった大都市圏では、


経済規模が大きく

求人数も膨大


そのため、50万人以上の労働力不足が予測されています。


しかし、同時に人口流入というプラス要因があるため、労働市場全体の逼迫感は地方に比べればまだ緩和されている面もあります。


──一方、地方はどうか?


地方圏の多くの県では、


経済規模は小さいものの

求職者数の減少ペースが加速度的に進行中


そのため、有効求人倍率は極めて高水準に張り付いています。


求人数そのものは都市部より少なくとも、「働き手」がいない──という構造的な人材不足が地方ではより深刻化しているのです。


つまり、


👉 都市部は「量的不足」

👉 地方は「構造的不足」


──この不足の質の違いが、今後求められる対策にも大きな差を生むことになります。

画一的な処方箋は通用しない。地域の特性を踏まえた緻密な戦略が不可欠な時代に入っているのです。



企業が感じる「人手不足感」と産業別の傾向


では次に、企業現場では実際に「どんな産業で人手不足が深刻なのか」──この点を見ていきましょう。


厚生労働省の調査によれば、企業が感じる「人手不足感」は産業によって明確に差が出ています。

上位を見ていくと──


学術研究、専門・技術サービス業:60ポイント

医療・福祉:58ポイント

建設業:57ポイント

運輸業・郵便業:56ポイント


こうした産業は、いずれも私たちの日常を支える「生活維持サービス」に直結する分野。


つまり、日本社会全体にとって「不可欠な領域」でありながら、全国的に深刻な人手不足に直面していることが分かります。


さらに、非正規社員についても「不足」と感じる企業が28.8%に達しており、その推移パターンは正社員とほぼ同様。


幅広い雇用形態にわたって「人材不足」が社会構造に染み込んでいるという状況が見えてきます。


ここで重要なのは──

👉 こうした産業が地域経済に占める比率が高いエリアほど、人手不足のインパクトはより強烈に地域社会全体に波及するということです。


産業構造×地域特性──この掛け算で、地域ごとの「人材危機の濃淡」が決まっていく時代に入っているのです。



「未活用労働力」という視点と「年収の壁」という現実


日本の労働力不足を考えるうえで、見逃してはならない視点があります。

それが──「未活用労働力」という存在です。


これは、


失業者

潜在労働力人口(働く意欲はあるが、求職活動は行っていない人)

追加就労希望就業者(短時間勤務だが、もっと働きたい人)


──これらを合計した「今すぐには見えてこないが、労働市場に眠る潜在的な供給力」です。


つまり、単なる失業率では決して読み解けない「隠れた労働供給源」がここにあります。


中でも注目すべきは、女性の動向です。


新型コロナの影響で、男性の未活用労働力は一時的に増加しましたが──女性の潜在労働力人口はむしろ減少傾向にあります。


これは、女性の労働参加が進んだ結果、すでに「供給余地」が縮小してきていることを意味します。

しかし、まだ「余地」はゼロではありません。


依然として、「もっと働きたい」と考えている「追加就労希望就業者」が一定数存在しています。そして、彼女たちを最も強く縛っているのが──「年収の壁」問題です。


つまり、

👉 一定の年収を超えると社会保険料負担が増え、結果的に手取りが減ってしまう。

👉 それゆえ、働き手側に「働き控え」が発生する。


この「壁」を突破できるか否かが、日本の労働供給力を左右する大きなカギになるのです。


政府はすでに、

税制上の「103万円の壁」→「160万円」へ引き上げ

社会保険上の「106万円の壁」の撤廃方針


──こうした改革を打ち出しています。


これにより、これまで「働き控え」をしていた層──特に女性を中心とした潜在労働力が、より長く、より多く働ける環境が整う可能性は高まっています。


とはいえ、政策の効果は段階的かつ複雑。地域間格差、企業側の受け皿、社会意識──さまざまな要素が絡み合うため、簡単に一気に解決とはいかないのが現実です。


では、こうした背景を踏まえた「未来の労働市場」はどうなっていくのか?



II. 2030年、2040年…未来の労働力はどうなる?


全体的な労働供給不足の予測


日本の労働力不足は、今後さらに深刻化することが、すでに数々のデータで予測されています。


国全体では──

2030年:341万人余りの労働供給不足

2040年:1,100万人超の労働供給不足


この「1,100万人」という数字は、現在の近畿地方の就業者数(約1,104万人)に匹敵する規模。

つまり──「近畿地方まるごと1つ分」の働き手が日本から消える未来が見えているのです。


「生活維持サービス」──日常を支える分野の危機

特に深刻化が予測されているのが──私たちの暮らしそのものを支える「生活維持サービス」分野です。


具体的には、


輸送・機械運転・運搬

建設

生産工程

商品販売

介護サービス

接客給仕・飲食物調理

保健医療専門職


──こうした分野で、2040年にかけて供給不足が一層深まると見込まれています。


たとえば、2040年予測では──


🚚 輸送・機械運転・運搬99.8万人不足(労働需要の24.2%)

🏗️ 建設65.7万人不足(同22.0%)

🧑‍🦳 介護サービス58.0万人不足(同25.2%)


──「4人必要な仕事に3人しかいない」状態が常態化するということです。


しかもこの影響は、特に地方部で顕著に現れます。


配送の遅延

道路メンテナンスの遅れ

災害復旧の停滞


──など、日常生活に直結するリスクが現実化していくのです。


以下の表は、リクルートワークス研究所のシミュレーションに基づく、都道府県別「生活維持サービス」充足率(2030年・2040年予測)です。


あなたの地域はどうなるのか?この未来図を、ぜひご自身の目で確認してみてください。

👇👇👇

都道府県

2030年

2040年



都道府県

2030年

2040年

北海道

91.7%

65.3%


滋賀県

92.7%

76.7%


青森県

88.1%

64.7%


京都府

86.0%

58.6%


岩手県

85.5%

59.1%


大阪府

充足

充足


宮城県

93.9%

70.7%


兵庫県

88.4%

62.9%


秋田県

89.6%

73.7%


奈良県

92.7%

77.6%


山形県

87.4%

65.1%


和歌山県

93.6%

77.3%


福島県

83.1%

62.9%


鳥取県

88.4%

69.0%


茨城県

91.3%

69.1%


島根県

95.7%

89.1%


栃木県

88.9%

67.6%


岡山県

91.8%

70.2%


群馬県

92.0%

70.0%


広島県

90.9%

69.0%


埼玉県

95.8%

95.6%


山口県

88.9%

69.4%


千葉県

充足

充足


徳島県

86.6%

65.7%


東京都

充足

充足


香川県

89.5%

73.6%


神奈川県

充足

充足


愛媛県

87.9%

63.6%


新潟県

84.8%

58.0%


高知県

89.0%

69.2%


富山県

90.6%

73.1%


福岡県

充足

93.1%


石川県

95.6%

79.0%


佐賀県

93.0%

80.2%


福井県

94.1%

82.0%


長崎県

90.5%

73.8%


山梨県

94.0%

79.2%


熊本県

90.2%

69.7%


長野県

86.3%

60.1%


大分県

93.9%

79.3%


岐阜県

88.3%

64.1%


宮崎県

85.1%

65.3%


静岡県

91.7%

70.3%


鹿児島県

89.8%

71.1%


愛知県

92.9%

70.4%


沖縄県

91.9%

71.8%


三重県

93.5%

81.6%






出典:リクルートワークス研究所「2040年の生活維持サービス充足率(都道府県別シミュレーション)」より作成


この未来予測が示しているのは──都市部と地方部では、将来的な「需給ギャップのダイナミクス(動き)」が大きく異なるという現実です。


たとえば、東京都、千葉県、神奈川県、大阪府などの大都市圏は──


2040年時点でも「生活維持サービス」分野の需給ギャップは比較的小さい

あるいは「充足」状態が維持されると予測されています。


これはなぜか?


👉 引き続き「人口流入」というプラスの流れが維持される

👉 それにより、一定の労働力を確保しやすい構造が続くと考えられるためです。


──しかし、地方はまったく異なるフェーズに入ります。


たとえば──

北海道:充足率65.3%

岩手県:59.1%

新潟県:58.0%


──2040年時点で「生活維持サービス」充足率が著しく低下する地域が数多く出現すると見込まれています。


つまり、地方圏では人口減少と高齢化の加速によって、もはや「社会機能維持に必要な労働力すら確保困難」という、より深刻な課題に直面する未来が予見されているのです。


これは単に「労働力不足」という経済問題を超えて──「社会維持そのものの危機」という次元に移りつつあります。



人口減少・高齢化が地域労働力に与えるインパクト


国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、日本の総人口は──


2050年までに2023年比で15.2%減少と予測されています。


しかし──この「減少ペース」自体に、地域間で大きな格差が出るのが現実です。

たとえば──

東北地方:▲29.5%

四国:▲27.9%

北海道:▲25.1%

──と、地方圏では「3割近い人口減少」が見込まれているのです。


さらに、高齢化の進行も同様に地域差が大きく、


2050年の東北地方では65歳以上人口が「44%」に達する

南関東は「33%」程度に留まる


──という状況が予測されています。


この「人口減少」×「高齢化」──二重の構造変化が、地方圏の労働市場に極めて深刻な影響をもたらすのです。



主要産業・職種における「労働力不足」の具体像


医療・介護分野の現場は今、どれほどの人手不足に直面しているのか──

全国的に見ると、医療・介護分野の新規求人数は、コロナ以前から一貫して増加傾向にあり、いまや全新規求人の25%を占めるまでに拡大しています。


この背景にあるのは言うまでもなく──高齢化社会の進行による「需要の恒常的増加」もはや一時的なブームではなく、「不可逆的な需要増加」であることが明確なのです。


地域別に見ると──


九州地域では、福岡・鹿児島・熊本で「絶対的な不足数」が多い

✅ さらに、生産年齢人口比で見ると──👉 長崎・鹿児島・宮崎で「不足率」が特に高い


これらの県では、特に


生産工程

介護サービス

保健医療専門職

事務・技術者・専門職


──こうした職種の構成比が高く、人手不足が「産業構造」と密接に絡み合っていることが指摘されています。


つまり、単に「労働力が足りない」という量的問題ではなく、「産業構造との質的ミスマッチ」という側面が深く根付いているのです。


たとえば、医療・介護分野では──


需要は非常に高いにもかかわらず、

規制や財源の問題により賃金改善が進みにくい


結果、「担い手が見つかりにくい」という構造的な障壁が存在します。


こうした状況は、「人材不足」が、


👉 スキル不足だけの問題ではなく

👉 労働条件や賃金水準、働き方の柔軟性といった「制度面・構造面」が原因でもある──


ミスマッチの質が変わってきていることを明確に示しています。   



III. なぜ「人手不足」は深刻化するのか?──構造的要因を深掘り

需要増加 × 労働時間短縮 × サービス産業化──複雑に絡み合う要因たち


今、日本で進行している「人手不足」は、単一の要因によるものではありません。


実態は、


需要増加

労働時間短縮

サービス産業化の進展


──これら複数の要素が複雑に絡み合って、現状を形成しているのです。


2010年代以降、この「人手不足」は、


長期的かつ“粘着的”な問題へと質的に変化

2023年時点では、非常に広範な産業・職種に波及していると指摘されています。


特に、


対人サービス業

医療・福祉


──こうした労働集約型の部門で雇用が大きく拡大。


高齢化社会の進行消費者ニーズの多様化により、需要そのものは伸び続けているのですが──


👉 サービス提供には「人の手」が不可欠

👉 「代替が効かない人手依存型モデル」である


ここが「需要は増えているのに供給が追いつかない」最大の要因となっています。


さらに問題を深刻化させているのが──


労働時間短縮(働き方改革の進展)

労働力人口そのものの減少


この「供給サイドの制約」が同時に進行していること。


つまり──

「限られた労働力」で、増大する需要を賄わなければならない」


という構造的なねじれが、日本の労働市場の中で強まっています。


労働生産性の低迷──地域経済に与える深刻な影響


今、日本の労働市場を、より深刻な方向へ押しやっている見えにくい要因が存在します。

それが──「労働生産性の低迷」です。


実は、日本の労働生産性は国際的に見ても低水準。このことが、人手不足を加速させている「隠れたエンジン」になっているのです。


なぜ生産性が低いのか?


長時間労働の常態化

デジタル化の遅れ

従業員モチベーションの低下

時間基準型の給与体系


──こうした構造的な問題が複合的に絡み合っています。


特にサービス業など「人手依存型」の業種では、

労働生産性が極めて低くなる傾向が見られます。


さらに悪循環なのは──

長時間労働によって一時的に生産量を維持できても、従業員の疲弊がパフォーマンス低下を招き、結果として生産性をさらに下げるというループが生じている点です。


このような生産性の低迷は、次のような経済的悪影響も引き起こします。


賃金が物価を大きく上回る伸びが困難になる

企業の成長期待が低下する

設備投資が抑制される


つまり──👉 地域経済全体の活力をじわじわと蝕む要因になっているのです。


人手不足解消の本質的な突破口は、単に「供給量」を増やすことではありません。

「既存の労働力」で、いかに「より多くの価値」を生み出せるか──「生産性向上」こそが不可欠なカギになるのです。


労働市場のミスマッチ──そして「年収の壁」問題


もうひとつ、日本の労働力不足に深く根を下ろしている構造的課題があります。


それが──「労働市場のミスマッチ」です。


特に顕著なのが、企業側の「雇用条件の硬直性」


勤務時間や休日が希望と合わない

柔軟な働き方が提供されていない


──このギャップが、潜在的な労働力が市場に参加できない大きな壁になっています。


たとえば──

女性の場合


「世帯主の配偶者」や「35~54歳層」において、「勤務条件が合わない」ため就業を断念している割合が非常に高い


この背景には、


子育てや介護との両立

柔軟な勤務環境への強いニーズ


──があることが示唆されています。


この「供給側のニーズ」と「企業側の提供条件」とのギャップこそ、潜在労働力が活かしきれない見えない壁になっています。


その象徴が──「年収の壁」問題


特に、「106万円の壁」が、


👉 パート・アルバイト層が社会保険料負担を避けるために「働き控え」を行う主要因になっていました。


つまり、本来「もっと働ける」人が政策誘導型の市場歪み」によって「労働供給を抑制」されている。これが労働市場における人為的な障壁になっているのです。



IV. 労働力不足を乗り越える!──具体的な対策と成功への道筋


ここまで見てきた構造的な課題を打ち破るには──選択と集中による戦略的な取り組みが不可欠です。


日本全体が縮小均衡に陥るのか、それとも生産性革命と新しい労働供給源の開拓によって、未来を切り拓けるのか──。いま、正念場を迎えています。


多様な人材の活用促進──女性、高齢者、外国人

まず、喫緊の課題が「多様な人材」の活用です。


女性

高齢者

外国人


──この眠れる供給源をいかに掘り起こし、活かせるか。


これが日本の労働力不足対策の“第一の柱”になるのは間違いありません。



「年収の壁」見直し──労働力確保への新たな期待

政府は「年収の壁」問題の見直しを進めています。


令和7年度税制改正により、👉 所得税の「103万円の壁」→「160万円の壁」へ引き上げ

これにより、従来「働き控え」していた層が、労働時間や収入増加をより柔軟に選択できるようになります。

✅ さらに、👉 社会保険「106万円の壁」の撤廃(2026年10月予定)

これにより、

約200万人が新たに厚生年金の加入対象へ

「働き控え」「不公平感」の解消

将来的な年金受給や福利厚生の向上


──といった構造的なメリットが生まれ、労働市場への参加意欲が高まることが期待されます。


「特定技能制度」と外国人労働者活用の現状

外国人材の活用も、いまや日本の労働力不足解決に不可欠な柱です。


2019年に創設された「特定技能」制度

👉 人手不足が深刻な16分野(介護・建設・外食業など)で外国人材の受け入れが可能


制度設計も進化し、

「特定技能1号」→ 在留期間5年/家族帯同不可

「特定技能2号」→ 在留期間上限なし/家族帯同可(2023年対象分野拡大)


実績としては、

2024年10月末時点、外国人労働者数は230万人を突破(過去最高)。

✅ 特に、👉 インドネシア👉 ミャンマー👉 ネパール

──など、東南アジアからの流入が顕著であり、外国人労働者市場の中心軸が「東アジア→東南アジア」へとシフトしつつあります。


ただし課題も明確です。

コミュニケーション/文化の違い

就労ビザ取得の手続き負担

労務管理知識の不足


さらに、

賃金格差が縮小/円安影響により、日本市場の魅力度は徐々に低下している。


この現実にどう対処するかが、今後の国際労働市場での競争力を左右するカギとなります。


労働環境・労働条件の改善と「生産性革命」


労働生産性の向上こそが、日本の人手不足対策の本丸です。


長時間労働の是正

デジタル化の推進

従業員モチベーション向上

給与体系の抜本見直し

──これらの取り組みが生産性向上のカギになります。


「働き方改革」は単なる「満足度向上施策」ではありません。


労働供給の「質」そのものを引き上げ

企業内部から「人手不足解決」を生み出す強力な戦略なのです。


具体策としては、

残業時間の削減

柔軟な休暇取得制度の整備

多能工化の推進

IT・デジタルツールの徹底活用


こうした取り組みを通じて、


👉 既存労働力の「潜在力」を最大限に引き出す

👉 定着率の向上と生産性向上を両立する


──ことが、現場レベルで“成果が出る”成功パターンになりつつあります。


未来を拓いた「成功事例」──企業はこうして突破口を開いた!

ここまで見てきたように、労働力不足は決して「絶対に解けない課題」ではありません。実際に、日本各地の企業が“戦略的な打ち手”によって現場から変革を生み出しているのです。


今回は、そんな「突破口を見出した企業」のリアルな事例をご紹介します。



岐阜県:アース・クリエイト有限会社(建設業)

この企業が挑んだのは──

多能工化の推進

ITの積極活用

柔軟な休暇取得の促進(配偶者出産時や子どもの義務教育終了時までの特別有給休暇 など)

という「現場改革」でした。


その結果──


週平均残業時間は大幅減少

年次有給休暇取得率は85%に上昇

直近6年間、離職者ゼロを達成


さらに注目すべきは──「求人を出していないのに、新入社員が自然に入社してくる状況」が生まれ、売上と利益も大幅増加という好循環が回り始めたことです。



三重県:株式会社レグルス(製造業)

こちらは障がい者雇用を契機に、

ライフイベントに応じた柔軟な働き方(勤務時間変更、パート→正社員切り替え、時短勤務制度)

時間単位有給制度

互換作業訓練による多能工化

──といった「人を軸とした柔軟な職場づくり」を進めました。

結果──

離職率は2002年の12% → 数年で4~5%へ低下

従業員数も増加


さらに、求人広告に「その人に合った働き方に変えられる」ことを明記したことで、


応募数が増加

人材派遣・求人広告費が減少

生産体制拡大 → 売上大幅増


という好循環が実現したのです。



共通する「勝てるパターン」とは?

これらの事例が示しているのは──


👉 「働き方改革」=コストではない

👉 「働き方改革」=労働者のエンゲージメントを高め、定着率を改善し、生産性を向上させる「内部からの解決策」になる

──という極めて重要な本質です。


すべては「人を活かす仕組み」をつくるところから始まっている。


そして、その結果、


労働力不足を自社の力で克服できる

逆に競争優位を築ける


──そんな未来が、実際に現場で生まれつつあるのです。


地域創生と企業誘致──「雇用機会」は自ら生み出せる


地方圏における労働力不足は、日本の中でも最も深刻なエリアの一つです。

その要因は明確──人口減少と高齢化のダブルパンチです。


だからこそ、地方は「守り」ではなく、「攻め」の地域創生戦略と労働力確保策を一体で進めることが不可欠なのです。



DX・環境整備・企業誘致──相乗効果で未来を拓く


具体的な突破口は、すでに見えてきています。


地域DXの推進

若者・女性・移住希望者にとって魅力的な環境整備 ・子育て支援 ・柔軟な働き方の整備 ・サテライトオフィスの拡充

戦略的な企業誘致


これらは単独で効果を出すものではなく、掛け算で地域に変化を起こす施策群です。


地域活性化と労働力確保──好循環はつくれる


企業誘致は直接的な雇用創出につながります。

✅ しかし、それだけでは持続しない。


住みやすく魅力的な環境を整備することで、


👉 既存住民の定着

👉 新たな住民の誘致


──この2つを両輪で回すことが、長期的な地域活性化と労働力確保の成功条件なのです。

成功事例──地域はこうして「攻め」に転じた


三重県亀山市


2002年、シャープ誘致 → 県内にディスプレイ製造関連企業が集積

市内でも関連企業が誕生 → 新たな雇用創出 → 労働力確保に大きく貢献


岩手県北上市


約250社中180社以上が誘致企業

手厚い優遇制度(設備投資額10%補助/創業後3年間の固定資産税補助 など)

ワンストップサービスを提供 → 企業誘致と雇用創出を実現


熊本県菊池郡大津町

複数の工業団地を軸に製造業を応援

豊かな自然+生活環境の充実 → 企業誘致+人口増加の好循環を実現


秋田県五城目町浅見内

地域商店消失の課題に対して、住民主導で「みせっこ あさみない」を開設

新たな「活躍の場」を創出 → 地域コミュニティの活性化に貢献


秋田県藤里町

空き店舗をリノベ → 住民の交流拠点創出

地域おこし協力隊を活用し、人材育成+情報発信を強化



共通する「勝てる法則」は何か?

👉 経済的インセンティブだけでは成功しない

生活環境の改善

地域コミュニティの活性化

住民自らが課題解決に関与する「当事者意識」


──この3つが揃った時、地域内に新たな「仕事」と「働きがい」が生まれます。


その結果:


労働力不足の緩和

地域の未来志向型成長が始まる

という好循環が動き出すのです。


では、こうした「攻めの発想」がいかに日本全体の未来に不可欠か──なぜ今こそ待ちから、攻めに転じるべきなのかを、最後に総括します。



結論:日本の未来は、私たちの「選択」で創られる

いま日本が直面している「労働力不足」という課題は、単なる人手の問題ではありません。


少子高齢化による構造的な労働力人口の減少

産業構造の変化

労働生産性の低迷

制度的・社会的障壁(例:「年収の壁」)

──これらが複雑に絡み合う、極めて多層的な国家的課題なのです。


特に地方圏では、


人口減少の加速

高齢化の進行


──その結果、医療・介護・輸送などの「生活維持サービス」分野で深刻な労働力不足が進行し、地域社会そのものの持続可能性をも脅かす段階に入っています。

これは単なる経済的損失ではありません。


地域住民の生活の質

地域コミュニティの存続


──に直結する、いま動かなければ取り返しのつかない課題なのです。



いま、私たちにできること──そして未来への提言


1️⃣ 多様な働き方を「当たり前」にする

「年収の壁」の完全撤廃

短時間正社員制度/フレックスタイム/リモートワーク

──こうした柔軟な働き方企業・地域レベルで積極導入し、潜在的な労働力を最大限に引き出す環境づくりが不可欠です。


2️⃣ 外国人材を「仲間」として迎える

特定技能制度の円滑化+受け入れ分野拡大

日本の就労・生活環境の魅力向上

──賃金水準/生活支援/文化適応支援の強化が喫緊の課題。

国際的な労働力獲得競争の中で、「選ばれる国」になるための総合戦略が今こそ求められています。


3️⃣ テクノロジーで「賢く」働く

AI/RPA/IoT の積極導入

特に労働集約型産業(サービス/介護/建設)での業務効率化・生産性向上

限られた労働力でもより多くの価値を生み出す“スマートな産業構造”への転換が急務です。


4️⃣ 地域を「魅力的な働く場」に変える

戦略的な企業誘致

子育て支援/教育/医療/生活インフラの充実

──こうした生活環境の魅力強化と一体で、Uターン/Iターンを促進地域内で若者・高齢者が活躍できる場を創出することが重要です。



最後に──「未来は待つものではなく、創るもの」

労働力不足は、もはや、遠い将来の話ではありません。

すでに、私たちの社会・地域・企業・家庭の“今”に影響を与え始めています。


これは「経済問題」にとどまらない、社会の活力/地域の存続/国民一人ひとりの生活の質に直結する課題です。

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