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親による子の疎外は家庭内暴力なのか――14の反論を検証する国際研究から。片親疎外。

  • 執筆者の写真: 迪宇 坂本
    迪宇 坂本
  • 10月14日
  • 読了時間: 6分

更新日:10月16日

片親疎外


はじめに ――「親子断絶」は、家庭の中で起きる見えない暴力か?


近年、離婚や別居をめぐる親子関係の中で、「片親疎外(Parental Alienation:PA)」 という言葉が注目を集めています。


それは、「一方の親が、もう一方の親に対する子どもの関係を意図的に壊す行為」――子どもを味方につけ、相手を拒絶させる心理的支配の構造です。


国際的には、これを児童虐待家庭内暴力(Family Violence) の一形態と捉える研究が増えています。しかし同時に、「PAという概念は偽物だ」「加害者の言い訳に使われる」という強い批判も存在します。


この論争に対して、2024年に発表された国際的な学術論文『Countering Arguments Against Parental Alienation as a Form of Family Violence and Child Abuse』(片親疎外を家庭内暴力・児童虐待とみなすことへの反論を検証する研究)は、14の主要な批判を科学的に検証し、実証データをもとに反駁しています。


1. 片親疎外とは何か?

研究では、片親疎外(PA)を次のように定義しています。

「子どもが、正当な理由なく一方の親を拒絶し、もう一方の親に強く同調する心理状態」

これは、単なる親子の不和ではなく、支配・操作の構造が存在します。多くの場合、子どもは「攻撃する側の親の感情」をそのまま引き受け、拒絶された親(標的親)を悪人のように思い込みます。

学術的には、次の5つの要素(Five-Factor Model)が診断の基準とされています。


  1. 子どもが一方の親を拒絶し、敵意を示す

  2. 以前は良好な関係があった

  3. 拒絶された親に虐待や重大な過失がない

  4. 操作的な親による複数の「疎外行動」が確認される

  5. 子どもに典型的な疎外症状(非現実的な拒絶、罪悪感の欠如など)が見られる



2. 「片親疎外は疑似科学だ」という批判への反論

一部の国連報告や学者は、「PAは実証的根拠がない疑似概念(pseudo-concept)」と述べています。しかし、この研究チームは次のように指摘しています。


  • 2000年代以降、査読付き論文が200本以上発表されており、現在では「成熟した科学分野」として認知されている。

  • 2016年以降だけでも、全研究の40%が発表されており、検証的研究(定量分析)が急増している。

  • 多数の国際学会(AFCC, ICFP, APA 等)が家庭内暴力・児童虐待の一形態としてPAを認めている。

「片親疎外は疑似科学だ」とする主張は、最新の研究成果を無視した時代遅れの意見である。



3. DSM(精神疾患分類)に記載されていないのでは?

批判の一つに「DSM-5にPAという診断名がない」という主張があります。しかし、APA(米国精神医学会)は2022年に次のように明言しています。

「親子関係問題(Parent–Child Relationship Problem)」の項目には、“不当な疎外”を含む相互の敵意や非現実的拒絶の状況が含まれる。

つまり、名称として独立していないだけで、臨床的には定義の中に含まれているのです。これは、PTSDがかつて「戦争神経症」と呼ばれながら徐々に正式概念化された歴史と似ています。



4. 「すべての拒絶をPAと決めつける」という批判

研究者たちは明確に否定しています。

片親疎外と、虐待による正当な拒絶(estrangement)は別物である。

PAと判断されるには、


  • 過去に良好な親子関係があったこと、

  • 拒絶の理由が非現実的であること、

  • 操作的親の関与が確認されることが前提条件です。


虐待の証拠がある場合、まずは被害の保護が優先される。その上で、虐待が否定された場合にのみ、PAの可能性が検討されます。



5. 「PAの主張は父親の暴力を隠す手段」という批判

これも統計的に反証されています。


  • カナダと米国の500件以上の裁判記録分析では、 PAを主張した父親が「暴力歴を持つ確率」は10%以下

  • むしろ、子を疎外する側の親の方が、虚偽の虐待申告を行う確率が82%高い

  • 虐待のない親が不当に「危険人物」とされるケースが多数確認されている。


研究者は、「虐待」と「疎外」が混同されている現状が、本当に守るべき子どもを苦しめていると警鐘を鳴らしています。



6. 「片親疎外は男性中心の理論」という批判

過去には「PAは父親が使う武器」という偏見がありました。しかし最新の国際データでは


  • 母親・父親ともに、加害者・被害者の割合はほぼ同等

  • 母親が疎外を行うケースは全体の約70%(ただし母親が監護親であることが多いため)

  • 性別ではなく、監護権構造と法制度の非対称性が原因


つまりPAは、性別ではなく構造の問題です。女性もまた、PAの被害者として深刻な心理的ダメージを負っています。



7. 子どもへの影響 ――「愛されていない」と思い込むことの破壊力


長期的研究では、PAによって育った子どもは以下の傾向を示しています。


  • 自己否定感・うつ症状・孤立

  • 親密な人間関係への不信感

  • 学業不振・依存症・自傷行為

  • 成長後に自分の子どもを疎外する傾向(世代間連鎖)


研究者たちは、これを「心理的虐待の中でも最も見えにくく、深い傷を残すもの」としています。



8. 「親から子を引き離す治療は有害」という批判


確かに、子を無理に移動させる介入は慎重であるべきです。しかし、実証データでは、重度のPAにおいては一時的な監護権変更が有効とされています。

「軽度の場合は教育的支援で十分だが、重度のPAは“緊急保護”の対象である。」

これは児童虐待対応の原則と同じです。PAの本質が「心理的暴力」である以上、放置することこそが子どもにとって最も有害だと論文は指摘します。



9. 政策への提言 ――「子どもの幸福」を守る4つの柱


研究の最終章では、家庭裁判所・児童保護・教育政策への4つの改革提案が示されています。

内容

① 犯罪・暴力としての認識

片親疎外を家庭内暴力の一種として法的に位置づける

② 児童虐待としての保護

児童福祉当局が心理的虐待として介入できる制度を整備

③ 予防としての共同養育

家族法の基盤を「共同親権・共同養育」の原則に転換

④ 専門的治療と再統合

家族全体を対象にした再統合プログラムと心理療法を拡充



結論 ――「見えない暴力」を見える化する

子どもが「片方の親を完全に拒絶する」――それは、ただの親子不仲ではなく、誰かが操作しているサインかもしれない。

この国際研究が訴えているのは、「片親疎外」を家庭内暴力・児童虐待として正式に認識すべき時期が来ているということ。

子どもの心を奪う行為は、殴ることよりも深い傷を残す。だからこそ、暴力を「目に見える形」に変えなければならない。

「親の戦いが終わるとき、子どもの人生が始まる。」


参考文献

  • Harman, J., Kruk, E., & Hine, D. (2024). Countering Arguments Against Parental Alienation as Family Violence and Child Abuse.

  • Baker, A. (2020). Five-Factor Model of Parental Alienation.

  • Warshak, R. (2020). Social Science and Parental Alienation.

  • APA (2022). Guidelines for Child Custody Evaluations.

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サカモト ユウ

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